たぶんこれを、初恋と呼ぶ
その飲み会で、彼女と八嶋が言葉を交わしたのは最初のその瞬間だけだった。
俺の考えすぎだったのだろうか。特別親しいわけではなかったのかもしれない。
そろそろお開きだな、と皆で席を立つ。
彼女と一緒に会計をして皆より少し遅く外に出ると、何やらアツシさんが困った様子だった。
「どうかしたんですか?」
「あー、八嶋がつぶれた」
「え、八嶋が?珍しい」
アツシさんの向こうに、段差を椅子にして座り込む八嶋がいる。
俯いていて顔は見えないが、結構まずい状態なのだろうか。
「な。お前、八嶋んち知ってる?こいつに話しかけても聞こえてねーんだわ」
「いや、知らないっす。無理矢理起こすしかないですね…」
「えいや、それがまじで、何も返事がないの。結構やばいかも」
「まじすか」
いつもアツシさんと俺と八嶋の三人で飲みに行く時も、相当な量を飲んでも八嶋は顔色すら変わらない奴だ。周りの女性達に、どれだけ飲まされたのだろうか。
だめもとでもう一度八嶋に声を掛けるが、やはり反応はない。
どうしたものかとアツシさんと一緒に頭を抱えていたら、彼女が「あの」と声を掛けてきた。
「あの、私が送ります」
彼女の言葉に、俺とアツシさんは一瞬固まる。