たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「え。こいつ一人暮らしだけど、住所知ってるの?」
「世田谷ですよね?多分私が知ってる住所と変わってないと思うので」
「え、でも、その、女の子に申し訳ないというか…」
「八嶋さんの住所知ってる方他にいらっしゃるんですか?」
「いや、いないね。でも百合川さん、終電大丈夫なの?」
「大丈夫です。もし間に合わなかったら、すぐタクシーで帰るので」
彼女とアツシさんの会話を、俺はただ茫然と聞いていた。
気付いたらいつの間にか彼女が八嶋を立たせて、タクシーに乗り込んでいた。
「あー、ありゃ何かあるな、あの二人」
アツシさんの言葉が、耳の奥に残る。
そういえば俺、今日彼女に指輪の事を説明しようと思っていたんだった。
しまった、他の事が気になりすぎて、忘れた。
その日俺は酔っていたせいか、どうやって帰ったのかよく覚えていなかった。
気付いたら家のベッドに着替えずに突っ伏していた。