たぶんこれを、初恋と呼ぶ


 月曜日出社すると、既に八嶋が来ていた。

俺に気付いて、「おはようございます」といつも通り挨拶をしてくる。


そりゃあそうだ。

俺はこの土日、金曜の飲み会のその後の事が気になってほとんど眠れなかったけれど、八嶋にとっては知ったこっちゃない事だ。


「先輩、コーヒー飲みますか?」

「……おお」


二人は本当にただの知り合いで、彼女は親切心で八嶋を家まで送り、すぐに帰ったのかもしれない。

そうだ、この前だってアッサム大尉がいるから早く帰ると言っていたじゃないか。


自分にそう言い聞かせ、無理矢理気持ちを落ち着かせようとする。

深呼吸をしていると、手元にコーヒーが置かれた。



「あ、ありがとな」


そう言ってコーヒーを口に含む。
隣から視線を感じたのでそちらを見ると、八嶋は俺の顔をじっと見て言った。



「先輩。あの子です、俺の元カノ」

「……、え?」

「忘れられないって言ってた子です」



コーヒーの味が、急にしなくなった。

静かな社内で、やけにコーヒーメーカーの保温中のぐつぐつとした音が耳に響いた。


「あの子」が誰かなんて聞かなくても、すぐにわかった。





正直、八嶋の言葉に何て返事をしたのかよく覚えていない。

多分「へえ」とか「ああ」とか気のない返事をしただろう。
仕事には集中していたと思う。むしろ仕事をしないと考えてしまいそうで、いつも以上にやりきった。






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