たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「……もしかしてヤスさ、あいつの事好きだったりする?まだ」
「……」
言葉に詰まる。
昔の自分であれば、恥ずかしくて気持ちとは正反対の事を言って絶対否定していた。
しかし今はそんな気力もない。
「あのさ、あいつお前と違って、お前と別れてから普通に彼氏いたよ。俺が言うのもおかしいけど、多分お前が思ってる程、あいつは特別な奴じゃない」
知ってるよ。
多分俺は彼女の黒歴史にしか過ぎない。
黒歴史どころか、歴史から抹消されているのかも。
急に金曜日の彼女と八嶋の姿が、頭に浮かんだ。あの二人だけ、別世界だった。
彼女と再会して運命かもとか厨二みたいなくだらない想像を膨らませて、馬鹿みたいだ。これだから俺はいつまでも素人童貞なんだ。
長い間付き合って、すれ違いで別れて、でもまだ好きで、仕事を通して再会って。
しかも見た目も明らかに似合ってる。しっくりくる。
運命だっていうなら、そっちの方が断然運命だろ。
元から俺が彼女を好きになるなんて釣り合いが取れない事だ。
でも。
『ムッちゃんを拾った人がいい人じゃないわけないじゃん』
あの時の彼女の笑った顔が、あの優しい声が、俺の中にずっと消えないままでいる。