たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「ちょうど安尾さん来てるよー」
「え…」
彼女の様子からして、俺がいる事は知らなかったようだ。
彼女は俺に気付くと小さく会釈をして、朝子さんに促されるままに遠慮がちに隣の席に座った。
そして何も言わずに俺と同じ健康定食が彼女の前に並ぶ。
彼女と会うのは飲み会以来なので、約3週間振りだった。
「その後、商品の方はどうですか?」
「え?ああ、順調です。ありがとうございます」
当たり障りのない会話を交わす。
彼女の顔を見ようとすると、八嶋の姿が脳裏にちらついてできなかった。
「……この前は」
「はい?」
「飲み会の時。八嶋の事、送り届けてくれたみたいで、ありがとうございました」
「あ、いえ…」
二人がその後どうなったのか八嶋からは聞いてない。あれから八嶋とは特に彼女の話をする事はなかった。
「八嶋の家、知ってたんですね」
俺の言葉に、彼女がはっと顔を上げる。
「まあ……あの、高校の時から知り合いで、大学入っても割と仲良かったので」
「それは、……前に付き合ってたからですよね」
「……何だ、知ってたんですか」
だめだ。
いつものように話せない。このまだと心無い言葉を言ってしまいそうだ。
「そりゃあの場で元カレとは言えませんよね」
「…」
「いいじゃないですか、お似合いですし」
ほら、出てしまった。
強がってるのがダダ漏れだ。