たぶんこれを、初恋と呼ぶ
彼女
あの日拒絶されたのは、正直、後にも先にも一生ないんじゃないかと思うくらいにキツかった。
「…恭平」
飲み会帰りのタクシーの中で、隣に座る男に声を掛ける。
「恭平、起きてるでしょ」
「…何だ、バレてたか」
「あの程度で恭平が酔うわけないじゃん」
先程までの飲み会で、約3年ぶりに再会した。
年相応に社会人らしく見えるが、それでもほとんど3年前と変わりなかった。
「分かってたのに送ってくれたの?」
「わざわざ嘘ついて動けないフリして、あの場で住所知ってるの私しかいないみたいだったし…何か話したい事でもあるのかと」
「あの場じゃ何も話せなかったからね。でも、周りに変に勘ぐられたかもよ?」
「大丈夫だよ。元々会社の女の子にあんまりよく思われてないし」
高校3年の終わり頃から大学までの3年と約半年の間、彼と付き合っていた。
そんな事わざわざ言う事ではない。大学時代も仲間内の皆で彼の家によくお邪魔していたとでも言えば何とかなるだろう。
恭平の姿を見つけた時は必死で平静を装った。
まさか、彼の隣に座っているのが恭平だとは思わなかったし、第一恭平は院に進むのかと思った。
まさか就職しているとは、しかもその会社が取引先だとは考えた事もなかった。
「ありがとう、俺のわがままに乗ってくれて」
「…わがままだとか思ってないよ」
恭平はずっと優しくて、「物分かりのいい彼氏」だった。
付き合っていた間、ずっとこの人に我慢をさせていた。
「…俺から別れたいって言った事、後悔してる」
「…」
「勝手な事だっていうのは分かってる。でも、梅の事忘れた事なかったよ」
私が短大を卒業して今の会社に就職したばかりの頃、私と恭平の間でズレが生じて、溝ができた。
恭平と別れた際他人に理由を問われると、「すれ違いがあった」と説明していたし、恭平もそう説明していると聞いた。
だけど本当の原因は全て私にある。恭平は何も悪くない。
「ずっと、恭平に謝りたかった」
「え?」
「我慢させてて、ごめんね」