たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「終電もうないだろ?…泊まってく?」
「ううん、帰るよ。このまま恭平を家に降ろして、そのままタクシーに乗って帰る」
「相当高く付くと思うけど」
「仕方ないよ」
「…あのさ、連絡先聞いてもいい?梅、携帯変えたでしょ」
「ああ、水没させて…ごめん、連絡先は知らせるのも迷惑かなと思って…」
「いや、こっちこそ。気使わせてごめん。これ、多分これだけあれば足りると思う」
そう言って恭平は、万札を2枚、直接タクシーの運転手に渡した。
「えっ、いいよ恭平。分かっててついて来たんだから、いらない」
「見栄くらい張らせてよ。俺、呑気な学生のままじゃないんだよ?」
あの頃と変わらず、優しい恭平。
彼を見ると、目頭がツーンと痛くなる。
「……ありがとう」
「こっちこそ、付き合わせてごめん。また、連絡していい?」
「……あの、恭平」
「大丈夫、梅は気にしなくていいよ、俺が勝手にするだけだから。でも友達みたいに、普通に接してくれると嬉しい」
「……わかった」
「おやすみ。気を付けて帰れよ」
タクシーの扉が閉まる。
角を曲がるまで、恭平はずっと見送ってくれていた。
苦しい。けれどこんな時でも浮かぶのは、やはり安尾くんだった。
だけどもう、会わない。