たぶんこれを、初恋と呼ぶ
そう決めて数日が過ぎた。
私は次の案件で忙しくなり、よく朝子の店に寄って夕飯を食べた。
朝子には安尾くんとの事も恭平との事も、全て話した。
彼女はいつも通り、ただ頷きながら聞いてくれた。
その日も、いつも通りに朝子の店に向かった。
店に入って、いつものカウンター席へ通される。
いつもと違ったのは、安尾くんがいた事だ。
もう会わない、と決めてたった数週間。
朝子の計らいだった。
想像通り、安尾くんは私と恭平の事を誤解しているようだった。
自分が望んだ事なのに、馬鹿みたいに動揺してしまう。
彼は私と恭平が過去に付き合っていた事も知っていて、「お似合いだ」と言われた。
彼なりの気遣いだったのかもしれないが、違和感があった。明らかにいつもの安尾くんではない。
でも、これでいいのだ。
私から離れられないのだから、彼が私を敬遠すればいい。
ただ最後に、少しくらい我儘を言ってもいいだろうか。
そう思ったら、どんどん言葉が溢れた。
どんどん自分の気持ちを吐露する私を、安尾くんは驚いたように見ていた。
でも私は少しでも彼の顔を見てしまうと決心が揺らぎそうだったので、ただただ、空になったスープの容器を見つめる。