たぶんこれを、初恋と呼ぶ


「忘れた事なんてないって言ったら嘘になるけど、彼氏ができた時、別れた時に、頭の中過るくらいには思い出してたよ」

よく言うよ。
忘れた事なんて、あるわけない。


「初めてだったんだけどな。安尾くんと付き合ってた時、私まだ誰ともした事なかったよ。安尾くんが初めての人になるんだなあって思ってた。
安尾くんも童貞卒業したんだね。おめでとう」


ずっと触れてみたかったその左手の薬指にそっと触れ、そう告げた。

安尾くんが困るのはわかっていたけれど、最後くらいはこれくらいのわがままを許してくれよと、欲が出た。






 家に帰ると、いつもながらムッちゃんが出迎えてくれた。

もう11歳になる。人生の半分近くを、ムッちゃんと共にしてきた。
私はいつもムッちゃんを優先してきた。

この前恭平にも言われたし、実は半年前まで付き合っていた元カレにも言われた。

半年前まで付き合っていた年上の元カレは、約2年ほど付き合った。
相手は結婚を意識している人で、私もこのままこの人と付き合っていればいつかは結婚する事になるのか、と一瞬くらいは考えた。
でもまだ仕事を始めたばかりだし、やりがいのある仕事で楽しいし、なによりムッちゃんがいる限り、私は結婚して家を出るつもりは全くなかった。


しかし彼は「同棲したい」と言い出した。日頃からムッちゃんと離れるのは無理と伝えていた。

ムッちゃんも一緒に暮らせばいいと言われたけれど、ムちゃんも高齢になってきて、こっちの勝手な都合でわざわざ環境を変えるのはしたくなかった。


でもある日、結婚の話が出た。「だからまだ考えられないって」と伝えたら、「でも、もうそろそろだろ?」と言われた。

大型犬の寿命はおよそ10歳~15歳だという。彼はムッちゃんがいなくなる事を前提で話していたのだ。


信じられないと思い、口論になり、犬と俺とどっちが大事なんだよと問われ、素直に答えた私はあっさりと振られた。



 ムッちゃんは私の宝物だ。
安尾くんがくれた、唯一の世界一大切な。



< 73 / 116 >

この作品をシェア

pagetop