たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「ムッちゃん、おいで」
両手を広げてしゃがむと、ムッちゃんは腕の中に飛び込んできた。
「ムッちゃんは、優しいね」
私、一生ひとりかも。仕方ないか。
ぎゅっとムッちゃんを抱きしめた。
リビングに行くと、何やら楽しそうな父と母の声がした。そして兄の声も聞こえた。
どうやらまた兄が戻ってきているらしい。疲れていて、玄関の靴を気にする余裕もなかった。
「ただいま」
「あら、梅お帰り。さっき、聖も帰って来たのよ」
母に言われ、父と晩酌をしている兄が「よお」と声を掛けてきた。
「またこっち戻ってたの?」
「んー、多分春から本社勤務になるから、色々とな」
「そうなんだ」
兄は、私と安尾くんの事をどこまで知っているのだろう。
気になるが、私と兄はそこまで仲がいいわけではない。悪くもないけれど、お互いの事にあまり干渉はしない兄妹だった。
「梅、ご飯は?」
「朝子のところで食べてきた」
「そう。今度お母さんも行こうかしら」
「うん、朝子も喜ぶよ。今度行こう」
母はそう言いながらキッチンへ戻り、父はお風呂に入った。
テレビの中のタレント達の笑い声がリビングに響く中、兄に言った。
「安尾くんに会ったよ」
「……あ、そうなんだ」
「どこまで知ってるの?」
単刀直入にそう聞くと、兄はテレビから私に顔を向け、じっと見つめてきた。
「あのさ、ヤスの事、構わないで欲しい」
「……どういう事?」
「知ってると思うけど、ヤスって恋愛事苦手なんだよ。そりゃ一番最初にお前らを無理矢理くっつけた俺が悪いけど、でも今は……お前も、あいつの事辺に期待させんな」
「は?」
「昔とは違うだろ。高校生の時と同じじゃないから、気まぐれでヤスの事振り回したりするなよ」
「何それ、どういう意味?」
兄から出た言葉は、信じられないものだった。
確かに始まりはおかしなものだったけれど、それでも私は家でも愛情表現を隠さず出していた。