たぶんこれを、初恋と呼ぶ



終業後会社を出て駅まで道を歩きながら、聖に電話を掛けた。


「もしもし?」

「あ、聖。昨日気付かなくてごめん。今大丈夫か?」

「おお…ヤス、俺お前に謝らなきゃいけない事がある」

「え?なんだよ、改まって」


聖はやけに様子を窺うような声だった。

聖がそんな事を言ってくるなんて珍しいので、思わず足を止めた。


それは聖が謝らない人間だとかそういう意味ではなく、聖に謝られるような事をされた覚えが俺にはないのだ。



「前にヤスに梅の事がまだ好きかって聞いただろ。その後に俺、…すげえ無神経な事言った。ごめん」


聖が言うのはもしかして、俺と違って別れた後に彼女には彼氏がいた、という内容の話だろうか。



「俺今仕事でこっち戻ってきてて、昨日の夜梅と話したんだ。お前に何か言ったのかって聞かれた。すげえ慌てた様子で」

「え?」

「昨日ヤスに言った事そのまま伝えたら、余計な事言うなって怒られた。梅があんなに俺に感情的になったの、初めてでビビった」


突然彼女の話が出てきて、身構える。

あの子が怒ったって、どういう事だ?




「…あの頃俺、ヤスが梅の事なんとなく気に入ってるって言うのは分かってた。ヤスは絶対自分からいけないから、じゃあ俺が取り持ってやろうとか思って、結局俺はヤスにふざけて、いらんお節介で悪い事した。もうヤスに余計な思いさせたくないとか傷つけたくないとか、結構思ってる」

「あれは…俺がずっとウダウダしてたから…。聖なりに気を利かせてくれたっていうのはすげー伝わってた」

「俺と梅って別に仲は悪くないけど結構知らない事多いし、そういう恋愛の話とか全然した事なくて。だから梅がヤスの事どう思ってるかとか、昔も今もずっと分かんなかったし、兄としても聞けなかった。悪い。お前と別れて、梅には彼氏できたけど、お前は童貞だし彼女できないまま結局素人童貞になるし…」

「おい」

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