たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「彼女できないっつーか、作ろうと思ってないのかなって。
梅との別れ方がトラウマになってるのか、それともまだ好きなのか、聞くに聞けなかった。でももし梅の事まだ気になってんなら、正直早く忘れた方がいいと思った。
この先もしお前と梅が付き合っても、多分梅の過去の男とか気にしてまた変に空回りしかねないし」
「…うん」
「始まりも終わりもはっきりしてなかったから、お前は梅に罪悪感が残ってて、本当は梅の事好きとかそういうんじゃなくて、お前にとって梅は一応初めての彼女だから他の女とは違う『特別』で、ずっと記憶の中の梅に囚われてるんじゃないかって心配だった」
「それは、違う。…違うよ」
「でも、ヤスには好きな人とちゃんと付き合って、すげー仲良く幸せにずっと居てくれればいいなっていうのは昔から思ってる」
「……」
初めて聖の心の内を聞いた。
聖とはこういう話を真面目にした事はなくて、彼女と付き合い始めた時も終わった時も、聖は軽くて、詮索して来る事はなかったから。
「ヤス、俺が言える事じゃないけど…本当に梅が好きなら、もう後悔はすんなよ。もしダメでも、ヤケ酒には付き合うから。でもヤスはほんとすげーいい奴だから、もっと自信持てよ」
「…聖、俺もずっとはっきり伝えなくてごめん。俺は昔からずっと、梅ちゃんが好きだった。初めての彼女だからじゃなくて、梅ちゃんだから、別れてもずっと好きだった。だからきっかけをくれた聖には感謝してるんだよ」
「そっか。ヤスから本当の事聞けてよかったよ」
「うん、ありがとう。また連絡するよ」
気付いたら、いつも乗る線とは違う線の電車に乗っていた。
大学生の頃、何度も使った電車だ。
時間が経つにつれて、社内の乗客は減っていく。
毎朝毎晩この時間を掛けての通勤は辛いだろう。
俺だってそれが嫌で、社会人になって実家を出た。