たぶんこれを、初恋と呼ぶ



 ピンポンと、もう何年も来ていなかった家の呼び鈴を鳴らす。

こんな時間に迷惑かと思ったが、体の赴くままに来てしまった。

「はーい」と、昔よく聞いていた声が飛んでくる。扉が開くと、その人物はとても驚いた顔をしていた。



「あら!安尾くんじゃない!?」

「お、お久しぶりです。遅くに突然すみません」

「本当久しぶりね!でもどうしたの?聖は大阪戻っちゃったわよ?」

「あ、いえ…今日は、梅さんに。お戻りになってますか」

「梅?」


おばさんは不安そうに俺を見た。

そりゃあそうだ。

おばさんやおじさんが俺との別れ方を聞いているのかはわからないが、決していい別れ方をしたわけじゃない。

7年音沙汰もなかった奴が突然現れて彼女に会いに来るなんて、多分いい気はしない。



「梅さんに、話したい事があります。会わせて頂けないでしょうか」

「……あの子今日は早く帰って来れたから、今犬の散歩に行ってるのよ。上がって待っててくれる?そうだ、夕飯も食べていってよ」

「い、いえ。散歩のコースを当たってみます。お気遣いありがとうございます」

「あら、そう?あ、あの子に連絡してみる?」

「いえ、大丈夫です。探します。ありがとうございました」



アッサムの散歩コースは知っている。

アッサムを拾ったばかりの頃は子犬だったので短かったが、その後どんどん大きくなる身体に合わせて、彼女に相談されて俺が考えた。

俺も終業後直行したので、彼女も帰宅した時間はそんなに変わらないだろう。反対側から行くより、追い掛けた方が早そうだ。



とにかく走った。こんなに全力で走ったのは高校の体育の授業以来だ。


10分程走り続けると、彼女とアッサムを見つけた。


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