たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「ゆ、百合川さん!!」
久々に腹の底から声を出した。
彼女はすぐに振り向いて、驚いた顔をした。
「え、どうして…わっ」
すると彼女と同じく振り向いたまるで狼の様なこの大型犬…アッサムが、勢いよく俺に向かって突進し出したので、リードごと彼女も俺の元に走る羽目に。
ワンッ
とめちゃくちゃ尻尾を振って、アッサムに飛び掛かられた。
7年前も相当でかかったが、更にまたでかくなっていた。
体重も重く、この大きな身体で飛び掛かられたらひ弱な俺は当然の如く崩れ落ちた。
「アッサム、元気だったか?」
俺の事を覚えてくれていたみたいだ。
ああ、どんなに狼の様にでかくなって凛々しくなっても、めちゃくちゃ可愛い。
「どうしたんですか、こんなところで…」
息を切らしながら、彼女は訝しげに聞いてきた。
そりゃそうだ、こんな会社からずっと離れた場所で、薄暗い中いきなり声をかけられたらこうなる。
「ゆ、百合川さんに話があって。家に行ったら今散歩中だって聞いて」
「家に来たんですか!?」
「ごめん、図々しくて…」
「いえ、そういうんじゃなくて、意外で…母に絡まれたりしませんでした?」
「しなかったよ。昔と変わらずいい人だね」
「そうですか…」
「百合川さん、散歩中にごめん。話したい事があるんだ。俺にとってはすごく大事な話で、君には退屈かもしれないけど、どうしても聞いてほしい」
「…」
「散歩が終わってからでいいから、少し時間もらえないかな。あ、でも勿論百合川さんの都合に合わせるから…」
「百合川さんって、呼ばないでください」
「え?」
「また前みたいに、名前で呼んでほしい」
彼女の物とは思えない、心細そうな小さな声だった。
静かな住宅街で、俺と彼女の声と、アッサムの息の音だけが響く。