たぶんこれを、初恋と呼ぶ



「…梅、ちゃん」

「……」

「梅ちゃん」



その名前を呼ぶと彼女は、…梅ちゃんは、泣きそうな顔になった。

釣られて俺も泣きそうになるが、彼女が俺の袖をぎゅっと摘んだので、熱くなる目頭を必死に堪えた。



近くの公園にドッグランがあるので、そこに入る。

夕方だからか利用者は誰もおらず、アッサムはその中を伸び伸びと駆け回った。


ドッグランを見ながら、俺は息を整えて彼女に言った。



「…俺の話をしても、いいかな」

「うん」

「まず最初に、あの、俺は結婚なんてしてないんだ。指輪はその、偽物で」

「……恭平に聞いた。なんでそんな嘘ついたの?」

「これには話せば深くてくだらないわけがあって…」

「私に近づかれるのが嫌で、線引いたの?」

「っ、それはない!絶対!」



まさか、そんな風に思われていたとは。

驚いて、力んだ声が裏返ってしまった。

恥ずかしさのあまり口元を押さえて消えたくなったが、彼女は安心した様に「よかった…」と頬を緩ませた。




「それが聞けたら、嘘なんてどうでもいいよ」


優しい顔で彼女が笑った。


その表情と言葉だけで、俺のどんなに恥ずかしい事でも、彼女はちゃんと真面目に聞いてくれそうな気がした。

< 85 / 116 >

この作品をシェア

pagetop