たぶんこれを、初恋と呼ぶ
「…梅、ちゃん」
「……」
「梅ちゃん」
その名前を呼ぶと彼女は、…梅ちゃんは、泣きそうな顔になった。
釣られて俺も泣きそうになるが、彼女が俺の袖をぎゅっと摘んだので、熱くなる目頭を必死に堪えた。
近くの公園にドッグランがあるので、そこに入る。
夕方だからか利用者は誰もおらず、アッサムはその中を伸び伸びと駆け回った。
ドッグランを見ながら、俺は息を整えて彼女に言った。
「…俺の話をしても、いいかな」
「うん」
「まず最初に、あの、俺は結婚なんてしてないんだ。指輪はその、偽物で」
「……恭平に聞いた。なんでそんな嘘ついたの?」
「これには話せば深くてくだらないわけがあって…」
「私に近づかれるのが嫌で、線引いたの?」
「っ、それはない!絶対!」
まさか、そんな風に思われていたとは。
驚いて、力んだ声が裏返ってしまった。
恥ずかしさのあまり口元を押さえて消えたくなったが、彼女は安心した様に「よかった…」と頬を緩ませた。
「それが聞けたら、嘘なんてどうでもいいよ」
優しい顔で彼女が笑った。
その表情と言葉だけで、俺のどんなに恥ずかしい事でも、彼女はちゃんと真面目に聞いてくれそうな気がした。