たぶんこれを、初恋と呼ぶ



「映画観に行ったんでしょ?どうだった?」


 月曜日の休み時間に、朝子がそう聞いてきた。
私は苦笑しながら、朝子には正直に答えた。


「私は楽しかったよ。でも多分、向こうは私の事本気で好きじゃないからなあ」

「え?梅を?そんな事…」

「好きだとか言われた事ないし、始まり方が変な感じだし。何考えてるかわかんない人なんだよね。なんか多分女の子に自分から近づけないタイプなのかな。お兄ちゃんがその人にとりあえず女の子紹介するって感じで私の事勧められたから、向こうも友達の妹だし断れなかったのかも。ただ単に優しさで付き合ってくれてるんだと思う」

「いや、何それ。おかしいよ…梅、それでいいの?」

「いやいや、違うの。結局どう思われてても付き合えるなら付き合いたいっていうか。だって会える理由ができるじゃん」

「梅がいいならいいけど…優しい男の子なんていっぱいいるじゃん。こんな事言うのもあれだけど…その人よりいい人も、たくさんいそうなのに。そんなにその人がいいの?」

「うん。その人がいい」

「ふふ、梅がそんなに男の人好きになるの初めて見た。今まで付き合ってた人は、何となくって感じが多かったもんね」

「よくわかってなかったからね…」


安尾くんは私の3人目の彼氏にあたる。

といっても、前2人の彼氏は中学生の時と、高校1年生の始めに付き合っていたくらいで、両方とも3ヶ月くらいで、後者とはキスはしたけれど、それ以上の事はしておらず、浅い付き合いだった。


「朝子、今日放課後空いてる?」

「うん、空いてるよ」

「彼氏にクリスマスプレゼント会に行きたいんだけど、ついてきてくれるかなあ」


来週はクリスマスだ。

安尾くんからは何も言われていない。もしかしたらバイトが入っているかもしれないけれど、ほんの少しでも会いたい。後で予定を聞いてみよう。



「いいよ、ちょうど私も彼氏に買いに行こうと思ってた。何あげるか決まってるの?」

「うん。時計」

「大人っぽい!いいねえ」


私と朝子がクリスマスプレゼントの話で盛り上がっていると、リナ達がやってきた。


「プレゼント選びに行くの?リナも行きたい」

そう言われたら断る理由もないので、「いいよ」と頷いた。



 放課後、6駅離れた普段は行かないようなデパートへ行った。

制服のまま、女子高生が数人で時計のブランド店へ入るのは気が引けたけれど、一人で入るよりは大分良い。

恐る恐るショーケースを覗いていたら、スーツを着たお姉さんがにこりと笑って「よかったらお出ししましょうか?」と言ってきた。


「えっ、いや、あの…どれがいいか、いっぱいあって迷っちゃて…。もうちょっと探します」

「気軽にお声がけくださいね」


安尾くんは大学生。でも、できれば社会人になっても長い間付けていてほしい。

そう思って、バイトの今月のお給料の残りをATMから全額引き出してきて、ブランド物をプレゼントしようと決めた。

だけどいざショーケース内の時計を目にすると、ライトでやたらとキラキラ光っていて、ビビった。


リナ達は飽きたのか、デパコスを見てくると言っていなくなった。

朝子は私についていてくれたけれど、彼女もこのキラキラした空間に若干引いているようだった。


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