たぶんこれを、初恋と呼ぶ




少ししてアツシさんが出社してきて、「安尾、話がある」とアツシさんの一服に付き合わされた。


そこで梅ちゃんと八嶋との事を聞かれた。

アツシさんは何となくこの雰囲気を察していたらしい。いつもの野次馬のように聞かず、気を利かせて何も聞かないでいてくれたらしい。


俺は全てアツシさんに話した。


「マジか…あいつ身も心もイケメンだな」

「はい」

「お前マジで死ぬ気で仕事しろよ。そんで将来は八嶋の下で馬車馬のように働いて恩返してけ」

「はは、俺は八嶋の部下決定ですか」

「いや、あいつマジでめっちゃ早く出世しそうじゃん。俺も今の内に媚売っとこ」

「うわー」


アツシさんがこんな風に軽く話してくれて良かった。

俺は本当に人に恵まれている。つくづくそう感じた。






 週末の夜、仕事帰りに梅ちゃんと2人で朝子さんの店に行く事になった。


朝子さんに報告すると、彼女は自分の事のように喜んでくれた。


夕飯を食べ終えて店を出る。

俺はそわそわしながら「この後どうする?」と聞くと、彼女は気まずそうに「ごめん、今日はちょっと帰る…」と言った。

しまった。そりゃそうだ、アッサムの散歩がある。そんな顔をさせるつもりはなかった。


「あのね、お母さんはムッちゃんの力に負けちゃうから、散歩は私とお父さんの担当なの。お父さん今日飲み会で遅くなるみたいで…ごめんね、なるべくムッちゃんの事優先したくて…」

「大丈夫、俺だってそうだよ。気にしなくていいから」

「あの、でも明日は大丈夫だから…その、安尾くんさえ予定があえば…」


その言葉に、一瞬で脳内が湧き上がる。


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