たぶんこれを、初恋と呼ぶ



 気を取り直して、予約していたレストランへ向かった。

テレビや雑誌にも紹介された有名高級レストランだ。



「……安尾くん、このお店ってこういう普通の格好で来ちゃいけない気がする…」

「え?」



いかにも。

扉を開けたら、みんな高そうなスーツやワンピースドレスを着ている人ばかりだった。



顔面蒼白になる俺に、店員さんは神対応であまり人目につきにくい席に案内してくれた。


最悪だ。死にてえ。

そう思いながら運ばれた料理を口にする。

肉がめちゃくちゃ柔らかくて美味い。


「美味しい!」


梅ちゃんも頬に手を当てて喜んでいるので、ほっとした。


「安尾くん、このお店すごい高いよね。私今日そんなに持ってない…」

「何言ってんの、大丈夫だよ。俺に任せて」

「でも…」

「大丈夫!」


梅ちゃんは不安そうにしていたが、お金は大丈夫。何せ今までロクに彼女がいた事がないので、出費は友達との付き合い程度でほとんどなかった。


最後、支払いの方法がわからず手こずったが、店員さんの神対応で何とか乗り切った。





「なんかその、ごめん。上手くできなくて…」


店を出てすぐに、彼女に謝罪する。

情けない。どうしてこんなに空回りしてしまうんだろうか。

ため息をつく俺に、梅ちゃんは言った。



「安尾くん、この後どうする?」

「え…家まで送るよ」

「……私、安尾くんの家に行きたい」



落ちていた気分が、急上昇して、もやもやしていた感情が全て吹っ飛んだ。




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