たぶんこれを、初恋と呼ぶ


 「お邪魔します」と梅ちゃんが俺の家に足を踏み入れる。

その光景が非現実すぎて、とにかく凝視して目に焼き付けた。



「ここが安尾くんの部屋かあ。ふふ、安尾くんの匂いだねー」


くそ、何だこの可愛い生き物は。



……これはその、いいのだろうか。

来る時にコンビニに寄って準備してきたのを、梅ちゃんも隣で見ていたし。




「メイク落としとか、女物の着替えとかないね。よしよし」


梅ちゃんが俺の部屋を楽しそうに探索している。
それを見て、いい意味で少し気が抜けた。



「あのさ、心配しなくても結婚とか嘘だし、元カノとかもいないし、まず女にモテないし…大丈夫だから」

「何で?」

「何でって」

「安尾くんがモテないわけないでしょ」

「…」

「あれ、照れてる。可愛い」


こいつはよくもそんな恥ずかしいありもしない事を、こんな堂々と言えるな。


そういう態度をとりながらも、実は好きな子にそう思われていると知って、嬉しいと感じてしまっている。



赤くなった顔を隠す為に逸らそうとすると、彼女の顔がいつの間にか目の前にあって、キスをされた。



そのキスで、最後の理性の糸がプツッと切れた。




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