結婚前夜
９月の陽射しはまだまだ厳しいので、カーディガンは日焼け予防も兼ねている。

トイレで全身をチェックすると、改めてロビーに戻った。

ロビーにあるソファーに座って、時間潰し用に持ち歩いている文庫の小説でも読んでいればすぐに中島課長も現れるだろう。

私は博物館を見渡して、入口から目に付きやすい場所に設置されているソファーに座って、バッグの中から文庫本を取り出した。

もう何度も目を通している本なので、途中で中断されても気にならない。

文庫本を取り出して、２ページほど読み進めた時、不意に名前を呼ばれた。

「山本さん」

声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには今回のお見合い相手である中島悠人がいた。

「おはようございます。お待たせして申し訳ない」

中島課長はそう言って、私の方へ近寄って来る。

私は文庫本をバッグの中に仕舞い、ソファーから立ち上がった。

「おはようございます。
いえ、大丈夫です。こちらこそ少し早く到着しましたが、中島課長をお待たせしなくて良かったです」
< 6 / 34 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop