結婚前夜
小さい頃に持っていたぬいぐるみも展示品の中に見つけ、思わず笑みが浮かんでいた。
中島課長に気付かれない様に、俯きながらだけど。

おかげで特別展の展示室を出る頃には、ほんの少しだけ、気持ちも上向きになっていた。
そんな私の隣で、中島課長は黙って一緒に並んでいた。

彼は一体何を考えていたのだろう。

私は懐かしくて束の間の童心に戻る時間を楽しめたけれど、彼は楽しめたのだろうか。

そもそも女性向けの特別展に誘う時点で、どうなのか、私には課長の気持ちが全然分からない。

私達が博物館内の展示品を見終わったのは、11時半を過ぎた頃だった。
お昼時の陽射しはとてもじゃないけどキツすぎる。
博物館の外に出て話をする気にはなれない。

中島課長に促されて、博物館の中にあるカフェに入り、ここで軽い食事を取ることになった。

ここのガラス張りの窓際の席から、博物館ご自慢のイングリッシュガーデンが一望できる様だ。
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