キズ色カフェタイム
薄っぺらい言葉だと、自分で思う。
誰かとの不一致に傷付くことに疲れて、わたしは一人になることを選んだ。
そんな負け犬が何を言おうと、きっと彼の気休めにもならない。
でも、無意味な言葉の羅列ではあっても、ここに文脈が生まれる。
わたしがしゃべって、彼が沈黙で応える。
文脈が動けば、わたしは濾過《ろか》を続けられる。
「きみのバンドメンバーからは、きみと連絡が付かないってことだけ聞いた。それなのに、わたしのもとに、急にきみから『会おう』って連絡が来た。
こうして顔を合わせて、気付いたことがある。きみ、年齢相応に幼いな。安心した」
彼が目を見張った。
色の薄いまなざしを、わたしは受け止める。
「安心って……何ですか、それ?」
「きみの演奏も言葉も物腰も行動も、すごく大人びてる。
ときどき必要以上に格好を付けようとする若さを感じることはあるけど、そんなのは還暦を過ぎた老人でもやったりするわけで、きみの年齢を思い出させるファクターにはならない」
彼は少し笑った。
「ぼく、そんなに老けてますか?」
自嘲の笑みは、ざらざらした感触を強くする。
「達観しているように見える、とでも言えばいいかな。きみはわたしより十歳若いのに、対等な気がしてた」
「十歳は言いすぎでしょう? それに、対等に扱ってもらえるほうが、ぼくとしてはありがたいです」
「嘘だ」
わたしの断言に、彼の目が泳いで迷子になった。
「嘘、でしょうか?」
「今回の件があって初めて、きみが年下の男の子だってことを思い出した。きみは、脆(もろ)くて幼い、繊細な人だ」
彼が弱い人間ではない。
情けなくも格好悪くもない。
彼の幼さを目の当たりにした。
それでいいと感じた。
彼はその幼さに正直になっていい。
傷付いた痛みを率直に訴えればいい。