契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

「誰でもいい、というのは違う」

「え?」

「さっき、少し離れた場所から倉田に取材するきみを見ていた。きみは和菓子に関する知識が豊富なようだし、何より気難しく無愛想な倉田が、あんなに笑顔で取材に応じる姿は初めて見た。きっときみは、和菓子職人という職業に心から敬意を持っている。そう思った」

……あれ? さっきは『お前』だった呼び方が、今度は『きみ』になってる。

口調や表情がコロコロ変わる彼になんとなく違和感を感じながらも、現在は真剣な表情をしている彼をじっと見つめる。すると、彼はテーブルの上にある食べかけの和菓子に視線を落とし、話を再開した。

「それに、きみが実際その和菓子を口にした時の、あの幸せそうな顔……たとえ〝フリ〟だとしても、道重堂を背負って立つ俺の婚約者役をやってもらう相手にふさわしい。そう直感したんだ。突然で、無理な頼みかもしれないが、どうか……俺の親孝行に、協力してくれないか?」

彼は最後に、「このとおりだ」と言ってダメ押しのように深々と頭を下げた。


< 10 / 244 >

この作品をシェア

pagetop