契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「叶夢らしいな。どんな逆境でも自分の手で道を切り拓く力があって……尊敬するよ」
「なにそれ、嫌み?」
突然、目を細めて鋭い顔になる平川さん。いったい今の会話のどこに地雷があったのだろう。
場がぴりっとした緊張感に包まれ、私は不安げに二人の顔を交互に見た。
「俺は別に……心からそう思ってるだけであって」
「ふ~ん。ま、いいや。俺は、そのお前が褒めてくれた〝道を切り拓く力〟とやらで、お前の店を潰すだけだから」
平川さんが冷淡な口調で宣言した。
どうして〝潰す〟だなんて物騒なこと……ふたりは友達じゃなかったの?
流れ始める不穏な空気に、胸がどくどく嫌な音を立てる。
「……やっぱり、お前の目的はそれか。新規の店舗を開店させるとき、わざと道重堂のそばを選んでいるだろう。商業施設内のテナントも同じだ。いつも、vanillaは道重堂の隣か向かい側に出店する。偶然ではないと思っていた」
彰さんが、低い声を震わせて語る。けれど、怒っているふうではなく……悲しんでいるというか、残念がっている雰囲気だ。