契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「それがわかっているなら、心に刻んでおいてよ。あれからずいぶん時間が経ったけど、俺はまだお前を許しちゃいないって」
「叶夢……」
会話が途切れ、男性二人が睨み合う時間が続く。
そのうち、黒服に身を包んだ従業員がワインを運んできたけれど、彰さんはこの場にいるのが耐えられなくなったように椅子から腰を上げた。
「彰さん?」
「……帰ろう、結奈」
「え、でも……いいんですか?」
「ああ。このまま話していても、平行線だ」
彰さんは苦々しくそう言って、私の手首をつかむ。
部屋を出る直前、いちおう平川さんの方を振り返って会釈したら、彼はにっこり笑って手を振り、口の動きだけで「ばいばーい」と言っていた。
タクシーで帰宅する最中、後部座席に隣り合って座る彰さんはずっと無言だった。
彼が心配で、なにか声をかけたかったけれど言葉が思いつかず、私はそっと手を伸ばしてシートの上に置かれた彼の手を握る。
それに気づいた彰さんは、内にこもった感情を吐き出すように大きく息をつき、ゆっくり頭を傾けると私の肩にこてんともたれさせた。