契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
彰さんがこんなふうに甘えるなんて珍しい。だいぶ弱っているみたい……。
少しでも元気になってほしくて、空いている方の手で彼の頭をよしよしと撫でた。やがて、彰さんは自嘲気味に話し出す。
「がっかりしただろう。店を潰すと言われたのに、大した反論もできなかった俺に」
彰さん、どうしてそんなに卑屈になっているの……?
私はすぐに首を横に振って否定した。
「がっかりなんて、していません。平川さんが一方的に敵意を向けているだけに感じましたし……なにか事情があるんだろうって思いましたから」
彰さんはゆっくり体を起こし、私の手をしっかり握り直すとこう言った。
「事情……そうだな。それに関してはお前には話すべきだとも思うが……もう少し、待ってほしいんだ。結奈を信用してないわけじゃない。俺の心の問題なんだ」
「彰さん……」
すぐに事情は話せないとしても、正直に自分の心境を話してくれた。それだけで、今はじゅうぶん。
彼ならいつかちゃんと伝えてくれるはずだって、私も信じているから。
「わかりました。待ちます、私」
私は彼の目を見て、こくんと頷いた。
彰さんはようやく安らいだ笑顔を浮かべ、「ありがとう」と口にした。
その後私たちの間に会話はなかったけれど、気まずさはなく、穏やかな空気が流れていた。