契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
ま、まさか老舗和菓子店【道重堂】の社長ともあろうお方が、今日はじめて会ったばかりの、普通のOLである私に頭を下げるなんて……そうまでしちゃうほど、本当に困ってるんだ。
それに、息子の結婚するところを見て安心したいっていう、彼のお母さんの気持ちもわからないでもない。
二十八にもなって、結婚どころか彼氏すらいない私自身が、いつも両親に心配かけてばかりだから……。
「顔を上げてください」
ゆっくりと顔を上げてこちらを見た彼は、切なげに、すがるような瞳で私を見ている。そんな迷子のような目をした人を、見捨てられるわけがないじゃない。
それにこの人は、私がこよなく愛する和菓子を作っている会社の社長さんだ。きっと信頼して大丈夫だろう。
私は小さく息を吸い、意を決して告げた。
「フリ……でいいんですよね。私でつとまるなら、やります」
「本当か?」
「はい。ただ、お母様が、私を見てがっかりされないかだけ心配ですけど……」