契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「じゃあ、今日はわらび餅にしましょっか。すみませーん、これください」
すぐに店の人に注文し始めた私に、彰さんが遠慮がちに声をかける。
「いいのか? お前は水ようかんじゃなくて」
「はい。せっかくなら彰さんと同じものを食べて、美味しさを共有したいから」
私はそう言って、彰さんににっこり笑いかけたのだけど。
「ごめんな」
彼の表情は暗く、心の底から懺悔するように謝った。
……たかがわらび餅か水ようかんかで、そんな顔をしなくても。
「そんな、ごめんなんて……私、わらび餅も大好きですよ?」
「ああ。わかってる。でも、ごめん」
彼は店の人にお金を払いながら、再度私に詫びる。
いくら私の食い意地が張ってるからって、二回も謝るなんて……なにか、理由があるのかな。全然、想像がつかないけれど。
「気にしてないですって。ほら、わらび餅硬くなる前に帰りましょう? ね?」
「……そうだな」
ようやく笑顔の戻った彰さんと、また並んで歩き出す。
私は、食べるのが水ようかんだろうとわらび餅だろうと、あなたが隣にいれば幸せです。
声に出す勇気はなかったけれど、心の中でそう告白していた。