契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
ちらりと壁の時計を見たら、終業時刻を五分過ぎたところ。
仕事のキリもいいし、今日はこの辺で帰ろう。
そう決めて、デスクの上を片付け始めた時だった。後ろから誰かの腕がにゅっと伸びてきて、先ほど花ちゃんに見せた企画書を取る。
とっさに上司だと思った私は、まだその仕事には手を付けていないと説明するべく、振り返ったのだけど。
「へえ~。面白そうな企画だね。俺もインタビューされてみたいな」
なれなれしい口調で話すその人物は上司などではなく、なぜこんな場所にいるのか謎でしかない。
「ひ、平川さん……?」
私の目の前にいるのは、vanillaの社長で金髪がトレードマークの平川さんだった。彼はふんふん鼻歌を歌いながら、勝手に企画書をめくっている。
「なんであなたがこんな場所に……」
「そんなの、きみに会いに来たに決まってるじゃない」
「はい……?」
まったくもって理解不能だし、私はどちらかというと会いたくなかった。
だって、平川さんは彰さんのことをなぜか敵対視していて、前回会ったときひどい言葉を浴びせてきたんだもの。