契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
あまり好意的じゃない私の視線に気づいても、平川さんはどこ吹く風。
「ねえ、今度俺とふたりで食事でもどう?」
「……お断りします。なんで私とあなたが」
「えー、つまんない。いいでしょ? 彰には内緒にしといてあげるから」
甘ったるい喋り方でしつこく誘われて、困ってしまう。
どうしたらこの人は引き下がってくれるんだろう……。
頭の中でぐるぐるとうまい断り文句を考えていたそのとき。
「道重! ちょっと!」
会議から帰ってきた直属の女上司に呼ばれ、私は平川さんの横をすり抜け彼女のもとへと急いだ。
よかった。天の助け……!
平川さんのもとを離れられたことに安堵し、上司の言葉を待つ。彼女は声を潜めながらも興奮した様子で、ちらちらと平川社長を見ながら言った。
「あれ、vanillaの平川社長じゃない! どうしてここにいるのかわからないけど、あなた親しいなら今度の企画に協力してもらいなさいよ」
「え? いや、それはちょっと……」
まずい。まさかの展開だ……。確かに、平川社長は今度の企画にうってつけの人物ではあるけれど、彼に協力を仰ぐのは気が進まない。