契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
10.花火前夜のすれ違い
平川さんとの約束の金曜日。彼が食事をするのに選んだ店は〝早い・安い・うまい〟が売りの中華料理店だった。
意外なチョイスだとは思ったけれど、前回彼に会ったときと同じような敷居の高いお店だったら嫌だなと思っていたので、そうでなくて心底ほっとした。
こちらの気も楽だし、さらに彼が奢ってくれるというので、私は遠慮なくバンバン料理を注文した。
もともと乗り気でなかった食事会なので、せめてお腹いっぱい食べてやろうという魂胆だ。
「ホントによく食べるな。見てて気持ちがいい」
テーブルをはさんで向かい合う平川さんが、感心する。
彼自身は食が細いらしく、一人前のエビチリ定食を完食した後は私の食べっぷりを眺めてばかりだ。
「それはどうも。餃子追加していいですか?」
「どうぞどうぞ。好きなだけ食べて?」
「すいませーん」と店員を呼び追加注文を済ませると、平川さんがこちらを無言でじっと見ているのに気づき、私は眉間にしわを寄せて尋ねる。
「なんですか? じろじろ見たりして」
「ん? きみのことどうやったら落とせるのかな~って考えてるところ」
は? 私を落とす? ……突然何を言い出すのこの人は。