契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「……あいつは、裏切り者なんだ」
「裏切り者……?」
「彰本人に聞いてみればいい。あいつ自身、自分が裏切り者だというのはよくわかってるはずだ」
平川さんはそう言って、嘲るように鼻を鳴らして笑う。
私は何もできないもどかしさに、ひざの上でぎゅっとこぶしを握った。
私だって彰さん本人に聞けるものなら聞きたいけれど、今日私が平川さんと会っていることを、彰さんは知らない。なんとなく言い出せなくて〝同僚と食事してくる〟と嘘をついてしまったのだ。
そうでなくても、以前彼に平川さんとの間にある事情については、話せるようになるまでもう少し待ってほしいと言われている。
そのとき『待ちます』と言ってしまった手前、こちらから無理に聞き出そうとはしたくない。
……本当は、とても気になるけれど。
「平川さん」
だとしたら、今私にできるのは彰さんを信じることだけだ。
そう気づいた私は、改まって平川さんを見つめ口を開いた。