契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「また驚かせちゃおうかな……」
小声でひとり呟き、ドアから中に入ろうとしたその時。
「愛してる、か。なかなか情熱的だな、マリアは」
な、なに? 愛してるとか、マリアとか……。
楽し気な彰さんの声に、私の方がびっくりしてしまった。半開きのドアの隙間から目を凝らしてみれば、彼はスマホを耳に当てて電話中のよう。
いったい誰と話しているの……?
ざわざわと胸騒ぎがして、私はその場に立ちすくんだまま耳を澄ませた。
「ん? ……そうだな。俺も会いたいよ、マリアに」
しみじみ語る彰さんの優しい声に、私の胸はぎゅっと締め付けられた。
マリアって……女の人の名前だよね。以前、寝言でも呟いていた。
彰さん、私のほかに夢に見るほど会いたい女の人がいるの……?
そうだと決まったわけではないのに、胸がぎゅっと握りつぶされたように痛い。
『彰なんか信じない方がいい』――思い出したくないはずの平川さんのセリフが、頭の中を行ったり来たりする。
平川さんの前では、彰さんを信じようって強い気持ちでいられたのに……目の前にいる彰さん本人を疑ってどうするの。
きっと何かの誤解。自分にそう言い聞かせる。