契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「昨日、一緒にご飯食べた同僚が……失恋したばっかりだったので、話聞いてたらもらい泣きしちゃって」
それしちゃ泣きすぎだと内心自分に突っ込むけれど、彰さんは特に疑わなかった。
「なんだ……そうか。ならいいんだが。昨日、すぐに気づいてやれなくてごめんな。結奈、うつぶせでよく寝ていたみたいだったから」
「い、いいんですよ、そんな」
心配してくれる彼に、ズキンと胸が痛くなる。
昨日の電話を聞いた後では、優しくされるとつらい……。
私は両手を振って「気にしないでください」とアピールし、洗面所を出ていこうとしたけれど。
「今夜だな。花火」
彼の横をすり抜けようとした瞬間、穏やかな声色で言われて複雑な思いがこみ上げた。
彰さん、一緒に行くのが私でいいんですか……?
口に出す勇気はないけれど、思わず胸の内で問いかけた。
「結奈の浴衣姿、楽しみにしてる」
その一方で、彰さんに思わせぶりなことを言われると、性懲りもなく胸がときめく。彼の心が向いているのは自分の方だって、錯覚してしまう。