契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「じゃあ私はこしあんにします。でも、カスタードも食べたいので半分こしませんか?」
少し緊張しながらも、普段通りの食いしん坊な自分を装って提案する。すると彰さんの表情がわずかにこわばり、視線が不自然に泳いだ。
彰さん……やっぱりそうなんですね。でも、どうして……?
「次の方どうぞ。なんにします?」
彰さんが返事をしないまま私たちの順番になり、私は勝手にこう注文した。
「こしあんをふたつください」
店の人から品物を受けとって彰さんを振り返ると、ばつが悪そうに微笑んだ彼が言う。
「……気づいていたのか」
「なんとなく、ですけど」
今まで彰さんと暮らしてきたなかで、彼が絶対口にしなかったものがある。
最初は偶然かと思ったけれど、彼の様子を見るとそうではないらしい。
「ばれてしまったのなら仕方がない。白状するよ、俺は……」
話し出しながら屋台の列から外れ、ゆっくり歩き出したその時だった。
「見ーつけた」
近くで聞き覚えのある男性の声がして、私も彰さんも反射的に足を止めた。
そして声のした方を向くと、あまり会いたくなかった男性と見知らぬ女性が並んでこちらに近づいてきた。