契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「こんな人ごみの中できみを見つけちゃう俺ってすごくない? 運命ってやつかな」
夜でも目立つ金髪に、紺地に星柄の派手な浴衣をまとって歯の浮くようなセリフを言うのは、先日食事を共にした平川さんだった。
内心「げっ」と思いつつ、彰さんもいる手前あからさまな態度はとれず一応挨拶する。
「こんばんは……」
まさか、本当に私と彰さんを邪魔しに来たのだろうか。
胸に不安の影が広がり、一度は放していた彰さんの手をぎゅっと握りしめた時だった。
「お前……毬亜か?」
平川さんの隣にいる女性を見て、彰さんが驚いたように言った。
うそ……。なんで? 平川さんよりもずっと会いたくない人がここにいるなんて……。
「そうだよ。彰、ひさしぶり」
親し気に会話をするふたりに激しい動揺を感じながら、おそるおそる〝マリアさん〟に目線を移す。
〝トム〟である平川さんと同じく、顔立ちは純日本人。
ピンク地に大きなドット柄の描かれたポップな浴衣をまとう彼女は、見た感じ私とそう変わらない年齢だろうか。
体の線が細く健康的な小麦色の肌をしていて、はつらつとした印象を受ける。
それに対して、ぽっちゃり体型な上、手には今川焼が二つ入った袋を手にしている自分が恥ずかしい。女として、完全に負けている……。