契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
妻である私に隠れて、毬亜さんと連絡を取る。その意味は、考えるまでもない。
彰さんが本心で愛している人は、私ではなく――。
「何を言うんだ。毬亜と連絡を取ったのは事実だが、コソコソもしていないしそれは……」
彰さんが反論しようと声を荒げたけれど、私はこれ以上聞きたくなくて、掴んでいた彼の手をするりとほどく。
「結奈……?」
「……いいんです、もう。私も聞いていましたから。彰さんが電話で彼女に〝会いたい〟と言っていたのを」
彰さんの顔を見ずに、淡々と告げる。喉の奥が焼けるように熱く、涙がこみ上げそうになるのをぐっとこらえる。
「待て結奈。それは誤解だ。俺は……」
「聞きたくありません! ……ありがとうございました。今まで、結婚生活の真似事に付き合ってくださって」
自嘲気味に言いながら、左手の薬指から結婚指輪を外す。
「結奈……?」
「さよなら、彰さん」
一方的に言い、私は外した指輪を地面にたたきつける。
終わりを告げる儚い金属音とともに、私はその場を駆けだした。