契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「うう……痛いよう」
すっかり弱気になった私が、子どものようにぽろぽろと涙をこぼしはじめたときだった。
目の前に大きな人影がかかり、よく知っている上品なお香の香りがふわりと鼻先をかすめた。
まさか……と思ったときにはもう、最愛の人が目の前にしゃがみ込んでいて、私の傷ついた素足をそっと掴んでいた。
もしかして、追いかけてきてくれたの……?
「彰、さん……」
震える涙声で、ただそれだけ言う。
傷を確認していた彼が顔を上げ、真剣なまなざしで私を見つめた。
「痛いだろ。……ごめんな」
優しい声色で謝られ、複雑な気持ちになりながら首を横に振った。
ここまで追ってきてくれたことに淡い期待を抱いてしまいそうになるけれど、その〝ごめん〟はどんな意味を持つのか、知るのが怖い。
毬亜さんとのことを謝っているのだとしたら、私はもう立ち直れないよ……。
ネガティブな思考ばかり巡らせて何も言葉を発せずにいると、彰さんは私の手に下駄を持たせて、腰を上げながら言う。