契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
ダメだ……優しくされると、簡単にほだされてしまう。
さっきは『さよなら』と彼を突き放すようなことを言ったくせに、ちょっと甘いこと言えばホイホイついてくるお手軽な女だとか思われていたらどうしよう……。
結局は彰さんに未練たらたらな自分に悶々としつつ、さっそく本社ビルの中へと連れていかれた。
広いエントランスの正面に位置する受付には誰の姿もないけれど、巡回していた警備員の男性がこちらに気づき、近づいてきた。
「これはこれは道重社長。どうされました? 見るからにプライベートのようですが……」
社長の顔は、警備員でも知っているらしい。
かぶっていた帽子を取りうやうやしく頭を下げた彼は、浴衣姿の私たちを見て不思議そうにする。
「社長室に忘れ物をした。悪いが、妻も一緒に通させてもらう」
「そうでしたか。承知しました。どうぞお通りください」
警備員さんはすんなり私たちを見送ってくれ、私たちはエレベーターのある方へと向かう。
「忘れ物なんてしたんですか?」
歩いている途中で彰さんに尋ねたら、彼はしれっと言い放つ。
「そんなの口実に決まってるだろ」
「えっ? じゃあなんで会社なんかに」
きょとんとして問いかけたら、エレベーターの前で立ち止まった時に彰さんはその答えを教えてくれた。