契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「はい! 最高の夏の思い出ができました!」
「ならよかった。で、そんなにうれしそうな顔をしてくれるってことは……さっき威勢よくぶつけてきた勝手な別れ文句は、本心じゃないってことでいいんだな?」
「え」
私は笑顔を貼り付けたままで、石のように固まった。
わ、忘れてた……。私、彰さんと気まずい状況なんだった。
冷や汗が背筋を伝うのを感じていると、彰さんがふっと苦笑して、持っていた信玄袋から小さな何かを取り出す。
「あ、それは……」
彰さんの指先が掴んでいるのは、私が投げ捨てたはずの結婚指輪だった。
そのプラチナが、窓の外で次々打ちあがる花火の光を反射していくつにも色を変える様子は、たとえようのない美しさだ。
その輝きをじっと見つめていると、彰さんが静かに問いかけてきた。
「これを嵌めているのが、嫌になったか?」
「嫌なんかじゃありません。……でも、それを私が嵌めていいのか自信がなくなって」
さっきはぐちゃぐちゃだった心が、彼と二人きりである今は落ち着きを取り戻していて、私は素直な本心を打ち明けた。
彰さんは一歩私に近づき、優しく左手を取る。