契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「おあずけと言えば……さっき買った大判焼きってどこ行っちゃったんですか?」
見た限り、彰さんの持ち物は貴重品が入った信玄袋しかないけれど。
「ああ……結奈を追いかけるのに邪魔だったから、叶夢に押し付けてきた」
「そうですか……お腹空いたな」
まだ屋台で何も食べていなかったので、今さらながら自分の空腹感に気づいてしょんぼりする。
「わかったよ、どこかで夕飯食べて帰ろう」
ぽん、と頭の上に手を乗せられ、見上げればいつもの彰さんの笑顔があって、ホッとする。
……多少のわだかまりがあっても、生活を共にするのが夫婦だものね。
私もできるだけ穏やかに、いつも通りを心がけよう。
そして焦らず、彰さんが話してくれる気になるのを待つ。
それがきっと、幸せになるための最短ルートなのだ。
自分の胸にそう言い聞かせ、甘い余韻の残る社長室を後にした。