契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
胸に暗雲が立ち込め浮かない顔をする私の手を、平川さんは面倒そうに掴んでオフィスから無理やり連れだす。
「ほら、行くぞ」
「わ、わかりましたから……手は放してください」
「あー……はいはい。結奈は彰一筋なんだっけね」
平川さんは皮肉っぽく言って、つまらなそうに前を歩き出す。
いちおうこれから仕事上でお世話になる相手なので、私は「すみません」と謝りつつ彼の後をついていった。
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会社からタクシーでおよそ十五分。到着した平川さんの店、vanillaは、パステル系の色を使ったふんわりした外観で、いかにも若い女性が喜びそうな雰囲気だった。
内装も凝っていて、壁紙がピンクのドット柄だったり、席同士を仕切るのにつかわれているのがふりふりレースのカーテンだったり、ペガサスやクマのキャラクターが至る所に飾られていたりと、すべてにおいて一貫性がある。
「すごい……これはいわゆる〝ゆめかわいい〟というやつでしょうか」
「そ。本当に、夢の世界に迷い込んだみたいでしょ?」