契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
「たぶん、気のせいじゃないと思うんですけど……。彰さん、餡子の入っている和菓子や小豆味のものをいつも避けるんです。おいしいですよって勧めても、頑なに食べてくれなくて……その理由、平川さんならわかるんじゃないんですか?」
私の切実な訴えに、平川さんは目をそらして下唇を噛んだ。そして、愕然とした様子で呟く。
「あいつ……まさか二十年以上、それに苦しんでたのか?」
そのセリフの後、平川さんは何かと葛藤するようにしばらく目を閉じていたけれど、やがて覚悟を決めたように真剣な表情になる。
「……教えるよ、結奈。彰が餡子を食べられなくなったのは、俺の……身勝手な嫉妬のせいだ」
平川さんは自嘲気味に、過去を打ち明け始めた。
彼と彰さんが出会ったのは、今から二十五年も前のこと。
「俺たちは、お互い同じ児童養護施設に預けられた、身寄りのない子どもだったんだ」
いきなり衝撃的な内容を明かされ、私は信じられないという風に眉根を寄せる。
「彰さんに、身寄りがない……?」
「ああ。今でこそ道重堂の御曹司なんて言われてるけど、それは社長夫妻の養子になったから得られた地位で、俺はずっとそれを妬んでいたんだ」
児童養護施設に、養子……。
思いもよらなかった事実が次々飛び出していき、私は平川さんの話に夢中で聞き入った。