契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
13.誰より愛しい妻の涙に、心動かされ
――side 彰
閉店時間を過ぎた道重堂本店の厨房。ここ最近、仕事の後は毎日のようにその場所に寄り、俺は苦手を克服しようとしていた。
……しかし、どうしてもあと一歩踏み出す勇気が出ず、作業台の前に座り固まってばかりだ。
今日も結局進歩はなく、作業台に頬杖をつきため息を吐き出す。
「無理するなよ、彰」
そんな俺にいつも付き合ってくれる倉田が、落ち込む俺を見かねて声をかけてくる。
「いや、でも……。こんなんじゃ、俺はいつまでたっても結奈を安心させてやれない」
そう言って再度姿勢を正し、作業台の上にある銀のボール、その中身を睨むように見つめる。
道重堂こだわりの、ふっくらと粒の残るつぶあん。
しかも、親方である倉田の炊いたものだ。美味しくないわけがないと、理屈ではわかっている。わかっているはずなのに……。
「パンダもダメだったんだもんな……。あれは自信作だったんだが」
倉田に残念そうに言われ、あの夜のことを思い出す。
丸顔の結奈に似た、かわいらしいパンダの練りきり。あれは俺の餡子ぎらいを克服するため、倉田が創作で作ってくれたものだった。