契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
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俺は、六歳までシングルマザーである母親に育てられていた。
父親は別に家庭があったが、金だけはあるらしくマンションの一部屋を俺たち母子に与えて、親の責任を果たしていると思っているような男だった。
たかだか六歳の俺にそんなことがわかるはずもないが、母がいつもそう言っていたのだ。
『あいつはサイテーの父親。苦労するのは私ばっかり!』
昼間はパートで働き、夜になると酒を飲んではそうやって父親のことばかり愚痴る。
たぶん、俺がその〝苦労〟の一因になっているのだろうと子どもながらに察していて、なるべくわがままを言わないよう、母親の顔色を窺って過ごす日々だった。
愛情を受けたと感じることもなかったし、彼女がそのうち自宅マンションに男を連れ込むようになると、俺はとうとう居場所をなくした。
できるだけ家にいる時間をなくしたい。その一心で、行きたくもない公園でひとり砂遊びをしたり、あてもなく近所をぶらついたり……。
しかし幼児がひとりでいると周りの大人たちに心配され、家に帰されてしまうこともあった。
そんなときは、男が帰るまで布団をかぶって耳をふさぎ、自分の存在を消すことくらいしかできなかった。