契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
そんな姿を見せられて育ったんだから、私だっていい人とご縁があれば、両親のような円満な家庭を築きたいと思っているんだよ? ただ……その“いい人”にはまだ巡り合ってないけどさ。
「好きな人でもいるの?」
ふいに母にそんなことを聞かれ、一瞬固まった。
いや、好きな人なんていないけど、これ以上の追求から逃れるには、嘘をつくしかない。
「まぁね。でも片思い」
なんて、しらじらしく告げてから、内心では母に〝嘘ついてごめん!〟と両手を合わせた。
すると母は半ばあきらめたように微笑んで、手の中のチラシをくしゃっと潰して言った。
「……そ。まぁ、恋してるだけいいか。うまくいったら、紹介しなさいよ」
「う、うん。わかった」
母が部屋を出ていき、パタンと扉が閉まると、私はホッとして脱力する。
それからパソコンの方に向き直り、画面に映る彰さんを見ながらぼそっとつぶやいた。
「実際は恋どころか、この人の偽物の婚約者演じるんだもんね……なにやってんだろ、私」