契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
倉田も、彼女の笑顔につられて笑ってしまうのかもしれないな。
そんなことを思いながら観察を続けていると、女性がテーブルの上に置かれた上生菓子を食べようと菓子楊枝を手に取る。
その瞳は今まで以上にきらきらと輝き出し、やがて気持ちいいほど大きな口を開けた彼女が、菓子を実食した。
次の瞬間、彼女はたまらないといった感じに目を閉じ、恍惚とした表情で呟いた。
「んんん~……この上品な甘さ、下の上でさらりと溶ける餡子の余韻……ああ、消えないで」
その姿が、俺の求めていた〝道重堂の嫁〟の姿にぴったりと一致した。
そして、和菓子を食べてこの上なく幸せそうに微笑む彼女に、なくしてしまった懐かしい気持ちが呼び覚まされる。
きっと昔の俺は、和菓子を食べてあんな風に笑っていたんだろう。
もう、その頃の俺は戻らないけれど……彼女がそばにいれば、なくした部分を補えるのではないだろうか。彼女とならば……望まない結婚でも、うまくやれるはず。