契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~
道重堂は、元禄時代に創業し、あの徳川綱吉も愛したという和菓子屋の老舗。従業員数は国内外合わせて三千人を超えていて、業界で一、二位を争う大手企業だ。
私は都内の小さな出版社でグルメ雑誌の制作にかかわっていて、今度の企画で和菓子を取り上げることになったため、今日は取材の一環で、このお店を訪れたというわけ。
「さて、行きますか……。秋の新作、どんなのだろう」
小さくつぶやいて、入り口をくぐる。
道重堂の銀座本店は、外観こそブランドショップのようなガラス張りのビルだけれど、一歩中に入れば広がるのは趣のある和の空間。
木や竹、陶器を多用した情緒あるインテリアに囲まれ、ガラスケースに並んだ和菓子は、美術館に展示される芸術作品のよう。
そんな販売スペースを横目に、私が向かったのは店の奥のカフェコーナー。そこは道重堂の和菓子とともに、抹茶やコーヒーが楽しめる癒しの空間である。
夜までやっている販売スペースとは違って、営業は昼間だけ。
なので、カフェの営業の終わる午後五時すぎ、お客さんのいないがらんとしたその一角で、ひとりの職人さんに取材を行わせてもらう手筈になっていた。