契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

平日昼間は仕事、夜は趣味のブログ、休日は和菓子の食べ歩き。

こんな生活で出会いがあるわけないとわかっているけど、なかなか一歩が踏み出せないんだよね。その理由もなんとなくわかってるけど……。

脳裏をよぎるのは、過去にひとりだけお付き合いしたことのある男性から言われた言葉。

『俺、次はもっと小食で痩せてる子と付き合うから。……つか、いい加減お前もダイエットしろよな』

そんな宣言をされ、当時の私はかなりのショックを受けた。だって、付き合いたての彼はむしろ逆のことを言ってくれていたのだ。

『結奈くらいぽっちゃりのほうが可愛いよ』
『いっぱい食べてる結奈がかわいい』
『俺は、そのままの結奈が好き』

私はそれを言葉通りに受け取って、デートのたびにお勧めの和菓子屋さんに連れて行った。

美味しいものを、好きな人と共有する幸せを感じたかった。

ただ、それだけだったのに……彼の方は、毎度毎度甘いものを食べさせられることに、次第にうんざりしていたらしい。

半年ほど付き合ったあとで、先ほどの別れの言葉を投げつけられたというわけだ。

その彼に未練はないけれど、心に負った傷だけはなかなか癒えてくれなくて、私はそれ以来、恋らしい恋を一度もしていない。

きっとあの時のように傷つきたくないから、誰かを本気で好きになることに、知らず知らずのうちに臆病になっているんだろうな……。

そこまでぼんやり思い至ったあと、我に返ったようにフルフル首を横に振る。

「いかんいかん、和菓子のおいしさを語るのに、失恋の思い出なんていらないって」

私は邪念を心の隅に追いやって、再びキーボードを叩くことに専念するのだった。



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