契約新婚~強引社長は若奥様を甘やかしすぎる~

俺と倉田しかいないはずの店に誰かが入ってきた音がして、せわしい足音が近づいてくるのが聞こえた。

「おい。店の扉、戸締りは?」

「あ。いけね、うっかりしていたかも……。それにしても、こんな時間に誰が」

倉田がそうつぶやくのと同時に、厨房に飛び込んできたのは。

「ゆ、結奈さん……?」

倉田の驚いた声とともに、俺は大きく目を見開く。

ここまで走ってきたのだろうか。膝に手をついてぜえぜえと呼吸する彼女は、厨房の入り口に立ちすくんだまま、俺を見つめて切なく訴えた。

「なんで……全部、ひとりで抱え込もうとするんですか」

「え……?」

「私は、彰さんの妻です! 彰さんが苦しんでるなら助けたいのに、のけ者にしないでください! ちゃんと、頼ってください!」

叫ぶように言いながら、感極まったように、涙まで浮かべる結奈。そのひたむきな姿に、俺は激しく胸を打たれた。



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